元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
クリストフの灰色の目を見て思いだす。最初に彼を見た時、どこか様子がおかしいと思っていたんだ。それは、彼自身が敵の船に乗って緊張していたから……。
「とうとう機会を得られずここまで来てしまいましたが、これで終わりです。死んでください、元帥閣下。あなたに殺された何万というエカベト国民の魂を慰めるために」
細い指が引き金にかかる。一瞬でそれは引かれ、硝煙のにおいが立ち込めた。
「レオンハルト様!」
咄嗟のことで反応しきれなかったのか、彼の左腕を弾丸が掠めたらしい。白いシャツがみるみる赤く染まっていく。
痛みに顔を歪める彼は、右手で血の吹き出す傷口を押さえた。
「まだまだ……それくらいじゃ、同胞が流してきた血の量にまったく届きません」
二発目を撃とうとするクリストフ。私は傷ついたレオンハルト様の前に立ち、両手を広げる。
ライナーさんとベルツ参謀がクリストフに銃口を向けた。銃を持つ三人がにらみあい、膠着状態に。
「もうやめて、クリストフ。参謀たちも、彼を撃たないで。もう誰も殺さないで」
私の声を、クリストフは冷ややかな目をして聞いていた。
せっかく戦争が終わったのに、どうしてまだ殺し合いを続けなきゃいけないの。