元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
「クリストフ。レオンハルト様はあなたの国王陛下を救おうとしていたんだ。たしかに彼は何万もの人を犠牲にした。許されることなどないと彼だって承知してる」
「ルカ、もういい」
私の肩をつかみ、自分の背後に回そうとするレオンハルト様。その右手は血で濡れていた。
「よくありません! あなたが死んで誰が救われますか。あなたがいなくなったら、門閥貴族たちが好きなようにエカベトを支配していくのは目に見えている。帝国の腐敗も進む一方です」
血で濡れた手を肩から外させ、両手で握る。レオンハルト様のアンバーの瞳が真っ直ぐに私を見ていた。
「あなたにとって酷なこととはわかっていますが、あなたの手で、この国を、エカベトを、良い方向に変えていきましょう」
「……荷が重いな」
視線を外そうとしたレオンハルト様の頬を包み、こちらを向けさせた。彼の頬に、血の跡がついた。
「ひとりでは無理です。でも、私が補佐をしますから。それにあなたには市民がついている。頼もしい仲間もたくさんいるじゃないですか」
結局、あなたが望むようなのんびりした人生は送れないかもしれない。でも、やっぱりあなたは陸のこじんまりした生活よりも、クジラのように悠々と大海を泳ぐような毎日を歩んでいてほしい。
たとえそれが困難と制約の多い、複雑な海域ばかりだったとしても。