元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
余裕の表情で、自分より背の低いライナーさんを見下ろすレオンハルト様。
「ライナーは、俺の士官学校の同級生なんだ。絡まれても相手にしないように」
「うわ、ひでえ。こんなやつ放っといて、仲良くしようなルカ。女のことなら何だって教えてやるから」
「はは……」
愛想笑いを返しながら、ゆっくりとレオンハルト様の背後に隠れる。
男って、下半身のことしか話すことがないのか? こんなのが幹部で大丈夫なのか、レオンハルト艦隊……。
そこでふと気づく。
レオンハルト様は、元帥になった途端に女と遊ばなくなったとライナーさんが言った。
元帥になった時と言えば、私が参加したあの式典があった一年前。
もしかして、私が変装していた『エルザ』と結婚したいとあの時から思っていて……だから他の女の人と遊ぶのをやめたのかな。
そんな風に考えついたけど、ため息をついてとりとめのない思考を打ち切った。
彼がどれだけ『エルザ』を思っていたかなんて知りたくもない。もうその気持ちは、『ルカ』である私自身には向けられないんだもの。
「さあ、出航の時間だ」
レオンハルト様がそう言うと、和んでいた空気が一変、緊張したものに変わる。
こうして私は不安ばかりが漂う大海原へ、放り出されたのだった。