元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
元帥専用の寝室につくと、他の下士官がお湯を運んできた。するとレオンハルト様はさっき言っていた頼みを口にした。
「ルカ、背中を拭いてくれ」
「はっ?」
下士官をさっさと下がらせ、レオンハルト様は服を脱ぎ始める。
「ちょ、ちょっと待ってください。さっきの彼らにやってもらえば良かったじゃないですか」
あっという間もなく、軍服を脱ぎ捨てて上半身裸になってしまったレオンハルト様を直視できず、視線を逸らす。
「いや、これは副官の仕事だ」
「前の副官さんもやってたんですか?」
「いいや。ごついおっさんにやってもらう気にはならない」
前の副官さん、ごつかったんだ……。
「お前が一番気がききそうだから。手もほら、こんなに細くて優しそうだ」
悪気のない顔で柔らかく右手を握られ、とくんと胸が跳ねた。
「し、仕方ないですね。お背中だけですよ」
私は準備された新しい布を持ち、レオンハルト様をイスに座らせた。
船の中では水は貴重品。陸のようにお風呂に入れることはまずない。そのため、兵士たちは体拭きで清潔を保っている。
私も例外ではなく、いつも誰もいない船艇の牢屋の隅に隠れて清拭し、他の兵士たちと雑魚寝している。豪快ないびきをかく者や歯ぎしりをする者がいて、苦痛だけれど仕方ない。
元帥以下の者はみんな何部屋かに別れて雑魚寝している。私だけ別の場所に行こうとすれば不審に見られるし、そんなわがままを通すつもりもなかった。