元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する

「なんだ、妬いてるのか?」

幹部たちの最後尾、甲板に続く狭い階段の途中で肩を抱かれた。

「どうして男が男に妬くんですか」

慌ててレオンハルト様の手を払いのけようとする。男という言葉を必要以上に強調した。

「周りにバレちゃいけないと思うとドキドキするだろ」

肩を抱いたまま払いのけようとした私の手をつかみ、耳元で囁く低い声。頬が赤く染まるのが自分でわかる。

何を言ってるんだこの人!

キッとにらむと、レオンハルト様はパッと手を放し、口笛を吹いた。

昨夜はあんなに苦しそうな表情を浮かべていたのに、朝になった途端スッキリした顔しちゃって。まるで別人じゃない。

まあ、例え個人的に悩むことがあっても、帝国艦隊を取りまとめる立場上、皆の前じゃそうそう辛い顔はできないだろうけど。

「一年間から女遊びはやめたって。今の俺はクローゼ元帥のお嬢さん一筋だから、心配するな」

一足先に甲板に出たレオンハルト様が、こちらを振り返って笑顔で手を差し出す。

『クローゼ元帥のお嬢さん』って、もしかしなくても姉上じゃなくて私のこと……。

「も、もういいですから、仕事してください!」

と言いながら、差し出された手を握る。厚みのある手は、昨夜のような頼りなさを全く感じなくて、安心した。

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