お願いドクター、毒よりも愛を囁いて
行き交う人の波を避けながら店に入り、こんばんはーと声をかけると、マスターがギョッとした顔つきで現れて。


「ヤケ酒なら後免だよ」


飲む前からそれかい。


「お酒を飲みに来たんじゃないですよ。この間の代金を支払いに来たんです」


「えっ?あれなら新君が払ってったよ」


聞いてない?と聞かれ、いいえ、と首を横に振った。


「そうか、変だな。どうせウチに来る患者だからその時請求してやると言ってたんだけどね」


マスターはそう言いながらも、別に奢られてていいんじゃない?と言いだした。

相手は外科医で儲けてるんだからと笑って。


「でもぉ…」


ここで会った後も散々お世話になったし。


「いいんだよ。あの人、自分とこの病院以外でもオペに呼ばれたりして稼ぎがいいんだから」


「えっ、そうなんですか?」


まあ座れば?と言われ、カウンターの椅子に腰掛けた。
マスターは小ジョッキならビールを飲んでもいいよと言い、一杯だけのつもりで飲みながら聞いた。


「新君が外科を継ぐ前に市民病院でドクターをしてたって知ってる?」


「うん、なんか聞いたことある」


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