お願いドクター、毒よりも愛を囁いて
「彼女の所に戻らなくていいの?用事があるから来たんでしょ?」


自宅に…と言って病院を見遣る。
ドクターは私の視線に合わせて病院を見て、直ぐに視線をこっちに戻した。


「俺は別に家に用があった訳じゃない」


「だったらどうして。…あっ、やっぱり酒代を払って欲しいから追って来たの?」


それならそうと言えばいいのに。
人が泣いてたのを気にしてないで。


「払いますよ。幾らですか?」


肩から下げてたバッグを手前に向ける。
ドクターはそんな私に近付いてきて、金なんかどうでもいいと怒鳴った。


「じゃあどうして!?」


ちらっと上目遣いで見上げれば、ドクターの顔はいつも以上の仏頂面。
明らかに怒ってる様な雰囲気で、でも、私は彼をそこまで怒らせたとは思えず。


「何で怒ってるの?」


訳分かんない。
どうしてそんな顔をされるのか。


「誰も怒ってねーよ」


「でも、不機嫌そうですよ」


「元々こんな顔立ちだ」


「うそぉ〜」


「嘘じゃねぇ!」


いんや、絶対にウソだ。
目尻が怒りでヒクついてるし、唇も噛み締めてるもん。

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