お願いドクター、毒よりも愛を囁いて
「少しはいいか?」


足を眺めたままで聞く。
包帯を解いてないのも、多分分かってるだろうと思った。


「はい。今日は痛みもあまり無いです」


先生のおかげでと言おうかとしたら、ふぅん…と素っ気ない感じ。
可愛くない、と言うか元からか。


「先生こそ昨日は間に合いました?」


「は?」


「お急ぎの様子だったし、大丈夫だったかな…と思って」


部長って人とエリナさんとの会食だったんでしょ?……なんて、そこまでは口にしないけど。



「……ああ、間に合った」


ドクターは急に安堵したような声を漏らした。


「緊急オペに呼ばれて最初は少し面食らったけどな」


「えっ!?オペ!?」


驚いて顔を見上げると真面目そうに頷く。



会食じゃなかったんだ。
部長と呼んでた人にオペの協力を頼まれたのか。


「……あ、もしかして、高速の玉突き事故のケガ人を?」


テレビで見た速報のテロップを思い出した。
ドクターは一瞬だけ目を見開き、「いいや」と声を発する。


「そっちは当直医が担当した。俺は入院してる子供の容体が急変したから来て欲しいと頼まれたんだ」


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