お願いドクター、毒よりも愛を囁いて
「座れよ、波南」


隣の椅子に招くと彼女はうん…と言いながら腰掛ける。


「何飲む?」


どうせビールだろうと思うが聞いた。


「キールにしようかなぁ。オフィスの先輩が美味しいと言ってたんだ」


「キール!?」


って言うより、その先輩って誰だ!?


「ああ、よく飲んでるよね」


マスターもその先輩を知っているから頷く。


「私いつもビールだけでしょ。美味しいんですか?と聞いたら『サイコー!』って話してて…」



「波南!」


つい声をかけてしまった。
思ったよりも大きくなった所為で、彼女の目が向けられる。


「何?」


キョトンとした可愛い顔で見つめられると場所が何処だろうと関係なく擦り寄りたくなるが___。



「飲むのは止めるぞ。帰る」


キールも要らないとマスターに言い渡し、バーボン二杯分よりも多い金額の札をカウンターの上に乗せた。



「ご馳走様」


そう言うと滑るように椅子を降り、さっと彼女の手を握った。


「えっ?新さん!?」


行くぞ、と呟き店を出る。
背中越しからマスターの「毎度〜!」と言う声が聞こえていた。



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