お願いドクター、毒よりも愛を囁いて
ズンズンと足を前に進ませながら自宅へと歩く。
今夜は家族も居ないから自分の部屋で共に過ごそうと決めていたんだが。


「ねえ、どうしたの?」


新さん…と手を引っ張る彼女に振り向いた。

胸の中がモヤついていたからなのか、笑顔でもない俺に彼女の方も笑顔を失っていく。



「何か怒ってるの?」


そんな風に見えたらしい。


「いや、そうじゃないんだ」


「でも、仏頂面だけど」


私が遅れたの根に持ってる?とストレートに聞く彼女に胸が疼く。



「違う」


「じゃあ何!?」


問い詰めてくる顔は少し悲しそうで、そんな表情を見ると遣る瀬無くなる。


「波南…」


抱き締めようとすると腕を伸ばされ、唇を突き出したままで拒否された。


「ちゃんと口で説明して」


こういうところは可愛くないんだ。
強気に出ているだけだと思うが、簡単に流されもしないところが波南らしい。



「……単に気になるだけだ」


拗れる前に白状しておいた方がいいだろう。


「気になる?何が?」


顔を下から覗き込もうとする波南に、プイッと反対を向いた。



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