お願いドクター、毒よりも愛を囁いて
「お前の言う、『先輩』って奴が」


カッコ悪いな…と思いつつも自分の狭さを口にした。
波南は小さな声で「先輩?」と聞き返し、少し無言でいたんだが__。




「…っんもう~、何勘違いしてるの!?」


ケラケラと笑いだしながら、ペシペシと俺のコートを叩き出した。


「先輩っていうのは女性だよ!?村田佳織(むらた かおり)さんと言うの!」


ヤダ〜もう〜、と笑い続ける波南の態度にはムッとした。
しかし、同時に気も抜けて……。


「女…」


呟くと、うんうん…と頷き返しながら目頭を擦った。


「確かに男性よりも仕事のデキる人だけどね」


憧れなんだぁ…と上目遣いになって話す波南は、キラッと目を輝かせている。


(この顔か…)


マスターが言っていたイキイキしてる表情というのは。


「波南っ!」


名前を呼んで抱き付いた。
腕の中でビクッとした彼女をそのままぎゅっと抱き締める。


「あ…新さん…?」


恐る恐る肘を曲げ、彼女の指先がコートの体感部分を握った。


「……好きだ」


それ以外に気の利いた言葉が出なかった。


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