お願いドクター、毒よりも愛を囁いて
なんだかんだ言っても開業医だし、土地建物以外にお金も持ってそうだしな。


(付き合って下さいとか言ってもソッコーで断られそうだけど)


そもそも独身なのかどうかも知らない。
左手の薬指に指輪がないからてっきり独身だと決め付けてるだけで。



「…よし、今日はこれで終わりだ」


前のめりに屈んでた背中が起き上がった。
安心した様に息を吐く仕草が見れただけで、少し役得のような気分になれる。

でも……


「先生、包帯は?」


巻かなくてもいいんですか〜?と追い討ちを掛けそうになった。
それを患者の私が言えばタブーなんだろうと思っていると、彼はブスッとした表情を見せて。


「分かってる。ちょっと待ってろ」


そう言うと椅子を回転させてデスクに向き直った。
内線を掛けるみたいで短縮ボタンを押してる。


手に持った受話器の向こう側からベル音が響く。
一体何処に掛けてるんだと不思議に思いつつもその背中を見守ってた。



「…ああ、母さん?」


(えっ?もしかして自宅?)


ギョッとして目を見張った。
まさか、お母さんに巻かせるつもりつもりなんじゃ……


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