お願いドクター、毒よりも愛を囁いて
同期の東山柑奈(とおやま かんな)は、目尻から零れ落ちそうな涙を人差し指の先で受け止めた。笑い過ぎて息もしづらい様子で、私はそんな彼女に冷ややかな目線を向けながらやけ食い。


「人の不幸を笑って」


とろけるプリンを食べ終えて呟けば、まーまー…と手をヒラヒラさせて謝ってくる。


「ごめんごめん、このところの波南があんまりにもツイてないからさ」


ヒクッと再び笑い出しそうになる柑奈を見つめ、好きに笑えばいいさとばかりにソッポを向いた。


「しかし、転んでもスイーツを買ってくる辺りが食いしん坊の波南だわ」

「ホント。私ならコンビニよりも病院へ行くわね」

「同感。甘い物よりドクターヘルプよ」


部署の先輩達はそう言ってディスり、それにも冷めた目線を向けた。


「…ねえ、ちょっと傷を見せてみて」


チームリーダーの村田さんに言われ、渋々と椅子の上に乗せた右足のスカートを捲った。


「…うわっ、こりゃヒドイ」


出血と滲出液とで滲んだカットバンは、もはや用も成してない。ガーゼ面からは血が浮き出て、テープ部分は剥がれ掛かっている。


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