お願いドクター、毒よりも愛を囁いて
「あの、本当に近場で申し訳ないんですけど、この通りを少し戻った先に外科があったと思うんですが…」


「外科?…ああ、藤田外科病院のことかな?」


歩いても行ける距離だよと言いたげなタクシー運転手さんに、其処までお願いしますと頭を下げた。


「あの病院の前ですっ転んで膝を打ち付けて歩けなくて」


「ああ、じゃあお礼参りに?」


「いいえ!診察と治療を受けに行くんです!」


「ははは、分かってるよ」


笑い飛ばした運転手さんはウインカーを点けて走り出した。
少し先にある交差点を右折し、大きくUターンしてから初乗り運賃内の距離にある病院まで送ってくれた。


「ここの先生、すっごく口が悪いと評判だよ。若い女子でも容赦ないから、泣かされない様に気を付けてね」


お大事にと言いながらドアを開けられ、私は右足を動かさない様にして外へ出た。

何とか立ち上がって歩道に入り、去って行くタクシーの背中を見つめながら、人がいいんだが悪いんだが知らない運転手の言葉を思い出した。


「口が悪い?いいよ、腕さえ良ければ」


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