お願いドクター、毒よりも愛を囁いて
ドクターはやれやれ…という顔つきで次の患者を呼んでこいと言い渡し、私は診察室の隅っこに追いやられた。


パタパタと可愛い足音が聞こえたのは原さん以外の看護師さんが、待合室にいる患者さんに向けて「どうぞ」と声をかけた時だ。


「やっとかー!」


元気のいい声がして、半ズボン姿の小学生が走りこんで来た。


「こら!走るな!」


ドクターは配線のコードがあるんだから…とその子を叱り、また怪我をして縫われたいのか!?と脅した。


「僕は縫われても平気だよ。だって先生は上手だもん!」


痛くないし、と椅子に座りながら話す子は額にガーゼを貼り付けてる。


「よく言うな。この傷を負って来た時には大声で泣いてたのに」


私の位置からはドクターの背中しか見えない。
だけど、向かい側に座ってる男の子はニコニコ顔で、あの時は頭を打って痛かったんだい!と強がった。


「まあ確かに縫ってる間は大人しかったな。我慢強くて感心はしたぞ」


気のせいかな。
ドクターの声が柔らかいような…。


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