お願いドクター、毒よりも愛を囁いて
あくまで治療。
お礼参りじゃありませんから。



「……少しお待ち下さい」


ブツッ…とインターホンが切れてしまう。
このまま知らん顔されるのかと思っていたら、ガチャリと鍵の開く音がした。



(おっ…)


シャーッとドアの向こう側に引かれたカーテンが開き、紺色のカーディガンを着たナース姿の女性が現れた。


「傷を拝見させて貰えますか?」


手動に切り替えたらしいドアを開け、こっちの顔を窺う。


「ああ、はい」


コレです…と言いつつピラッとスカートの裾を捲ってやった。
看護師さんは膝を折ってしゃがみ込み、目を細めて観念した。


「……ドクターに聞いてみますので、どうぞ中へ」


有難いことに肩も貸してくれる。
大丈夫ですか?と心配もされた。



(さすがは白衣の天使!)


神様か仏様にも見えてくる。
私を待合室の椅子に座らせると、看護師さんは少々お待ち下さいと言い残して立ち去った。



誰もいない待合室にはアルコール臭が立ち込めていた。
拭き上げられたばかりであろう椅子はテカテカに光り、本棚の雑誌類は整然と整えられてある。

< 8 / 203 >

この作品をシェア

pagetop