お願いドクター、毒よりも愛を囁いて
受付の事務員さん達は既におらず、診察が済んで片付けも終わったらしい室内を見ていると何だか気の毒な気もしてくる。


(でも、ここ以外に外科なんて思い浮かばなかったしな……)


そもそもの原因は、この病院の前にある街路樹だったんだからいいんだ…と責任を転嫁する。
 
道路と歩道との間に植えられてるくせに、アスファルトを持ち上げるくらいにまで成長するから悪いんだ。


「ああ?街路樹で転んだ?それで恨み言でも言いに来たのか?」


待合室の奥から男性の不機嫌そうな声が響いてきた。
さっきの看護師と思われる女性の声で、懸命に取り成そうとしてるのが聞こえる。


「いいえ、そうではありません。治療を希望されているんです」


「本当か?病院前ですっ転んだからって治療費をタダにしろとでも言うんじゃねーの!?」


汚い言葉を吐きながら足早に近付いてくる。
一体どんなドクターなんだと呆れながら目を向けてみた。



「先生、この方です」


少し恨みがましい目で見られながら掌で示される私。
すみませんね…と思い、看護師さんに向けていた目をもう一人の方へ向けた瞬間、ドキン!と心臓が跳ねた。


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