お願いドクター、毒よりも愛を囁いて
「大分引きつれてんな」


傷口が引っ張られて痛いだろ〜と、サドっぽく喜んでる。


「これが糸を切る時にまた痛むんだよなぁ」


覚悟しろと言いたげな雰囲気。
やっぱりサドだと思いながら、切られ始めた糸の結び目を見てた。


「兄さん、あの話は?」


藤田くんは診察室から逃げずに後ろにいたみたい。
そう声を掛けられたドクターは結び目を切りながら「んー」と声を発した。


「引き受けることにしたよ。他ならない部長の頼みだし」


「そうか」


何だかホッとしたような声色。
藤田くんの表情は見えないけど、目の前のドクターの顔は見える。


彼は縫い目を解き始めた時と表情を変えてない。
笑う訳でもなく、どちらかと言うとやっぱり仏頂面に近くて。


「何だよ」


ちらっと目線を向けて威嚇する。
やっぱり一昨日の朝がいつもとは少し違ってただけか。


「いいえ、別に」


あの話というのが少し気になるけど聞くことでもない。
さっきは何だか胸がモヤッとしたけど、別にあの女性が誰だとか自分には関係もないことだ。


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