お願いドクター、毒よりも愛を囁いて
「診察は今日で終わりだな。もう来るなよ」


来ませんよ。
と言うか、これまでも好きで来てた訳じゃない。


「ああ、それからその抜糸の後の傷な、完全にくっ付いてる訳じゃないからあちこちにぶつけたり擦ったりすんなよ」


出血しやすいぞと脅された。


「えっそうなんですか?」


軽くガーゼを当てられてるのを見ながら驚く。


「縫ったら早く治るって言ったじゃないですか!」


詐欺だと言えば、誰が詐欺だと反対に凄まれてしまい__


「テープだとまだ半分程度しかくっ付いてない状態だぞ。その点、縫ったら傷口だけは完全にくっ付いてるだろ!」


「傷の深かった部分だけが完全ではないと言うことよ」


ぼそりと耳打ちする原さんに、そういうことかぁ…と頷く。
ドクターは苦々しい顔つきでいて、プイッとデスクに向いてカルテを書き始めた。


「貴女が来なくなると寂しいわ。また傷を作ってらっしゃいよ」


(魚屋か、ここは)


原さんのらっしゃい発言にツッコミを入れる。
ドクターはカルテを書き終わると冗談じゃないと振り向き、「二度と来るな」と再度言い渡した。


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