九魂猫骨董品店
さっきよりも心なしか赤く燃える火の明かりを
どこか官能的に浴びた店主はそう囁くとこう続けた。
「そう、あの日、一人の男がやってきましたの。
見た目はとても若く見えましたわ。
現代でいえば中学生くらいかしら?
でも、どこか凛々しく自信に溢れた顔をしてました。
髪を一つに縛り、胸元には白く輝く大きな鱗。
腰には蛇の家紋が入っている太刀をさしておりましたわ。
彼が山に入る時、街の人が止めましたの。
ここは邪神が住んでいるんだ、山を越えるのは無理だ
ですが彼はこう返しました。
私にはこの蛇神様の鱗の護りがある、そして家宝の刀もある、この二つがきっと私をお守りしてくれるだろう
そう笑顔で返し、山に入っていったのです。
何も残っていない全てが黒い山、そこを鼻歌を歌いながら登っていきます。
その様子を闇の中から見ていた蛇神様は懐かしい雰囲気に駆られます。
以前、見たことがある気がする…
それでも思い出せずに、何故か苦しむ蛇神様。
モトニモドルナンテサセナイ…
ワタシタチダケクライノハイヤダ…
ミステナイデヨ…
頭の中で様々な言葉が浮かんでは消えて、浮かんでは消えて…
苦しみに苦しみ抜いて、闇雲に蛇神様は風の様に走ります。
彼奴が現れなければ悩む事も苦しむ事も無かった。
ならば、消してしまおうか…
彼が瞬きをして、目を開いた時、先程まで影も形もなかった大きく黒い赤い目を持つ蛇が、目の前に…
それは度肝を抜かれる程驚いたでしょう。
そして、皆と同じ様に逃げようと足掻く…
蛇神様はそうなると思いました。
ですが、彼の答えは違いました…」
赤く揺らめく光に赤い口紅が艷めく…
早く次の言葉を…話を…聞かせて欲しい…
なのに…
「あら、お茶が空でしたのね。失礼しましたわぁ。すぐお次しますから少々…」
そんなの嫌だ。
早く、早く続きを…
早く
早く
早く早く
早く早く早く
早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く
「あの!!」
つい声を上げてしまったが、店主は驚きもしなかった。
「なんでしょう?やはり続きが気になりますわよねぇ…お茶は後にして続けましょう…」
見透かされている恥ずかしさよりも、
この店主の物語にのめり込んでいった…