気付けば、君の腕の中。


棚に料理本を戻すと、突然携帯が電子音を鳴り響かせた。

慌てて携帯を耳に当てると、相手が誰かも確認しなかったことを、後になって悔やんだ。



『…おい、お前何でおれを誘った?』

「あ…え、っと。五十嵐、だよね?」

『ああいうの迷惑だから。幼馴染だとか思ってるらしいけど、おれにとってお前は“黒歴史”なんだ。二度と連絡すんじゃねーよ』


一方的に切られてしまい、俺はぐっと唇を噛み締めた。


絢華たちと出かける直前に誘った相手は、俺を苛めた五十嵐だったのだ。

…何で誘ったか、なんて。俺が誘える相手は五十嵐しかおらず、本当は躊躇した。


だけど、五十嵐は意外にも空気を読むし、何だかんだ頼りになるので、彼を選ぶほかなかったのだ。



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