雨の降る世界で私が愛したのは
 

 開いてみると、『やだ課外授業の日ってバレンタインだよ。三組はどこに行くのかなあ、大河くんにチョコ渡せなかったら最悪なんだけど。  ほのか』と書かれている。

 廊下側の席のほのかの方を見ると、すました顔をして黒板の文字をノートに書き写している。

 返事を書こうか迷ったが『そうだね』とか『ホント最悪』とかそんな言葉しか思いつかなかったし、ホームルーム中にわざわざ何人もの人を使って送ってもらうのも気が引けそのままにしておいたらほのかはひどく怒って口をきいてくれなくなった。

 ほのかの両親を初めてみた時は、おじいちゃんとおばあちゃんかと一凛は思った。

 遅くにできた一人娘を溺愛して育てたようでほのかは少し我が儘なところがあった。

 この時も放っておけばそのうち機嫌が直るだろうと思っていたら違った。

 ほのかは一凛のことなど見えていないかのように、他の女子たちと楽しそうにチョコの話で盛りあがっている。





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