雨の降る世界で私が愛したのは


 一凛は産まれてから一度も雨が止んだのを見たことがない。

 それを両親に言うと二人は「雨が降らないと困るじゃないか」と笑った。

 雨が降らなくて困ることなどあるのだろうか?

 考えても思いつかない。

 それよりも雨が降らなければ動物たちも殺されることはないのにと一凛は思う。

「それがこの世界だから仕方ないさ」

 依吹はぶっきらぼうに言った。



 教室に入ると遅れきた一凛と依吹をクラスメイトたちが冷やかす。

 担任の先生が「静かにしなさーい」と声を張り上げる。

「来週の課外授業は植物園になりました」

 喜びと不満の正反対の声が同時にあがる。

 一凛の背中を後ろの席の子がつつくので頭だけ向けると小さく折り畳んだ紙を渡された。

『いちかちゃん行き』と書かれている。








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