雨の降る世界で私が愛したのは


 そうだ、こんなふうに寂しいところだった。



 あれから十年間。



 一凛は駆け出していた。

 檻に近づくにつれ記憶の中よりも緑が濃くうっそうとしているように思え不安が大きくなる。

 檻はそこにあった。

 でも中には誰もいなかった。

 一目でその檻は今は使われていないと分かった。

 それでも一凛は檻の前まで行くとハルの名前を呼んだ。

 地面のコンクリートはところどころ割れて、その間から雑草が勢いよく伸びている。

 一凛の声だけが空しく荒んだ檻の中に響く。

 どこに行ってしまったのだ?
 
 何かあったら連絡をくれると依吹は言ったではないか。

 依吹への怒りの気持ちが芽吹いてくるのを押さえながら、一凛は事務所にまだいるはずの園長に訊いてみようと電話を取り出した。

 わずかな差で事務所をあとにしたという園長とその日結局連絡をつけることはできなかった。




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