雨の降る世界で私が愛したのは


「嘘っていうか、そういうトライはしたんだよな。俺、男いけるんじゃないかってさ。結局無理だったんだけど」

「だからなんでそんな」

「自分の遺伝子残したくなくてさ」

 一凛はどきりとする。

 無意識のうちに封印している依吹のお姉さんの噂。

 今の依吹の仕事と関係があるようで怖い。

「お姉さんは元気にしてる?」

「ずっと会ってない」

 伊吹は黙々とチャーハンを口の中に押し込む。

「ずっとって」

 こんなに近くに住んでいるのにと一凛は手を止め、まじまじと伊吹を見た。

 それに気づいた伊吹はちらりと視線をあげた。

「ハルに会ったか?」

 唐突に言った。

「ハルは今どこにいるの?」

 伊吹が何も答えないので一凛は続ける。

「この前あの檻の前に行ったけどいなかったんだけど。ハルは元気なの?なんでなにも教えてくれなかったのよ」

 依吹はチャーハンを食べる手を止め、一凛をじっと見る。


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