雨の降る世界で私が愛したのは
次の休日、一凛はさっそく動物園に向かった。
家を出る間際ふと思いたち、本棚から一冊の本を引き抜きバックに入れた。
事務所で園長さんに挨拶しようかと思ったが、来週から数日間毎日のように顔を合わせるからいいやと、事務所の前をそのまま素通りする。
少し歩いたところで今日が日曜日なのを思い出した。
依吹が描いてくれた地図はアバウトすぎて殆んど役に立ちそうになかったが、それでも一凛は手の中のそれをときどき見ながら進んだ。
よれた紙ナフキンの端っこに丸が描かれたハルの檻は、以前よりもっと園の端っこに位置していた。
手の平にかいた汗で紙ナフキンがしなびる。
気づくと駆け出していた。
ハルに別れを告げてから日本での一年間、何度こっそりハルの姿を覗きに行こうと思ったことか、イギリスに渡って最初の数年間、何度日本に帰りたいと思ったことか、ハルという存在を一凛が冷静に受け止められるようになった今でも、こうなってみるとはやる気持ちが押さえきれない。