雨の降る世界で私が愛したのは
雨に濡れる緑の奥にハルの檻はひっそりとあった。
以前の檻とさほど広さは変わらないが、以前の殺風景な檻に比べ、新しい檻は自然の小さなジャンクルを再現したかのように作られていて小さな小川まであった。
小高い場所に置かれた大きな岩の上にハルはいた。
遠目でもすぐにそれがハルだと一凛には分かった。
この園にいる他のゴリラに比べハルは一回り、いや二回り大きな個体で大柄だとは思ってはいたが、イギリスに渡りいろんなゴリラを見るうちに、ハルのような大きな体をしたシルバーバックのゴリラはそういないことを一凛は知った。
目の前のハルは記憶の中のハルを圧倒させるほど大きかった。
腕や足から伸びる漆黒の毛、雨に濡れ輝く銀白色の背中に一凛は息を呑む。
十年という歳月はハルの肉体を衰えさせるどころか、より強靭にさせていた。
多くの他のゴリラを見た後だからこそ今の一凛には分かる。
ハルはこんなにも美しかったのだと。