雨の降る世界で私が愛したのは

ハルの記憶

 

 しばらく檻の前に佇んでいた一凛が去って行く気配がした。

 ハルは手に持った本の表紙をめくった。

 冒頭の文章が目に飛び込んでくる。

『この本をこの宇宙で最も崇高な精神の持ち主ハルに捧げる  一凛』

 ハルは大きく太い指で小さな文字をそっと辿った。

 風と一緒に降りこんでくる雨に濡れないよう胸に本を抱きページをめくる。




『わたし達、人はこの地球上の動物の中で一番複雑な心理と高い知能をもっていると信じている。

 けれどそれは全くをもって人類中心主義の偏った考えであると同時にこの地球上の生物の中で一番浅はかな考えであることは確かだ。

 もし一番愚かな動物を競えばそれが人であることに間違いないだろう。

 人と動物を比較するとき、わたし達は人ができることを基準にして考えてしまうが、本来はそれぞれの分野に分けて判断すべきである。






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