雨の降る世界で私が愛したのは

園長からの依頼



 依吹の動物園は動物に優しい環境を整えようとする努力があちこちに垣間見られた。

 依吹は動物園の園長にはならなかったが、その精神に近いものを持っている人を園長にしたのだ。

 動物園の半数近い檻は、その動物の生態環境にできるだけ近づけた『生態系展示』という方法が取られていた。

 動物園にいる動物の役割である展示から除外されたハルも同様に扱ってもらえているのが一凛には嬉しかった。

 後から知ったのだが、最初ハルは新しくできた檻に引っ越したオランウータンの檻に移る予定だったらしい。

 それをハルにも新しい環境の檻を、と依吹が反対するスタッフを説得したのだと園長が教えてくれた。

 園長を含め昔のように誰もハルのことを睦雄と呼ばなくなっていたが、展示してないゴリラにこんないい待遇をと、不平を漏らすスタッフもいた。

 その殆んどが新しい檻を与えられなかった動物の世話をしているスタッフたちだった。


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