雨の降る世界で私が愛したのは


「いずれはすべての動物の檻を生態系型にしたいんですけど、先立つものがねぇ」

 と園長は頭をかいた。

 調査に動物園を訪れる日は必ずハルにも会いに行った。

 ハルは昔のように一凛を拒絶することもなかった。

 話をするのはほとんど一凛でハルが黙ってそれを聞いているのは昔と同じだった。

 依吹の動物園での調査も残すところわずかといったある日、一凛は園長から相談を持ちかけられた。

 ハルのことだった。

 昔よりずいぶん穏やかになったし、そろそろ他の動物たちと同じように展示したいということだった。

 そのためにと園長は言った。

「ハルに嫁さんを与えるのはどうかと思って。今いるトンゴがあれじゃないですか」

 トンゴとは動物園にいる別のオスのゴリラだった。

 かなりの老齢で最近は表の檻に出てこないことも多い。



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