雨の降る世界で私が愛したのは


「一凛、一凛」とほのかは外に顔を覗かせたまま手招きをする。

 おしぼりでポン酢がはねた襟元を押さえながら立ち上がった。

 その間ほのかは外にいる男性に向かって親しげに話しかけている。

「いやぁ、驚いたよ」

 声が聞こえた。

 おしぼりを持つ一凛の手が止まる。

 聞き覚えのある声だった。

 ほのかの背後から顔を出すとすぐに目があった。

 その目はとても懐かしそうに一凛を見た。

「久しぶりだね、一凛ちゃん」

 颯太だった。

 一学年上だった颯太が先に卒業して以来だった。

 最後に見たときよりも少し背が伸びているのではないかと思った。

 それ以外は昔とあまり変わっていない、左頬の下に昔はなかった傷を除けば。

「もしかして颯太の昔の彼女?」

 ひょっこりと颯太の横から顔を伸ばした男は顔が真っ赤だった。

 彰斗というその男は颯太の大学の時の友人で今日は二人で泊まりに来ているのだと言う。



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