雨の降る世界で私が愛したのは


 大人になった今だったらもう少し上手いやり方ができるような気がする。

 でもそれももう過去のことだ。

 颯太の手にはめられた結婚指輪が一凛にそんなことを思うのは余計だと言っている。

 一凛はそっと颯太の頬の傷を盗み見る。

 三センチはあるだろうか、新しいものではなく、ケロイド状に少し盛り上がっている。

 浅い傷ではああはならない。

 整った颯太の顔にその傷は不釣り合いで、役者が役のためにつけた特殊メイクかなにかで、拭けば取れそうな気さえする。

「本当はこの旅行でプロポーズするつもりだったんだってさ」

 颯太がいつの間にか畳の上で大の字になっている彰斗を見て言った。

 ほのかは一凛の横で頬杖を付きうとうととしている。

 それでこんなに酔いつぶれてしまったのかと、一凛は鼾をかいて寝ている彰斗に同情した。

「一凛ちゃんは結婚の予定とかないの?」

 唐突に聞かれ首を振る。


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