雨の降る世界で私が愛したのは
一凛が口をつけていない自分のグラスを手渡すと、ほのかは喉を鳴らして一気に水を飲み干した。
「こういう、僕は寂しいんです、ってふりして家ではフツーに奥さんと仲良くしてるから。一凛と二人で食事をしたかったら、離婚届を出してからにしなさいよ」
颯太は別に気を悪くするわけでもなく、
「離婚だって、ずいぶん飛躍するなぁ」と笑った。
「わたしは真剣じゃない恋愛が嫌なの。不倫するんだったら離婚するか、できないんだったら駆け落ちするか、それとも心中するくらいの覚悟でやれってね」
颯太はほのかを面白いものでも見るような目で見る。
「ほのかちゃん、そんなに不倫で痛い目にあったんだ」
ほのかは鼻で笑った。
「ばーか。わたしは結婚したたった一人の女も満足に愛せない男が語る愛なんてはなから信用してないの。わたしはそんなに安くはないのよ」
安く見られるけどさ、とつけ加えた。