雨の降る世界で私が愛したのは


 そうだ、あそこには檻もないのだ。

 なんで今まですぐにそれを思いつかなかったのだろう。

 それがハルにとって一番いいことじゃないか。

 やっぱりこの話は断ろう。

 園長にハルの事を詳しく話してハルは本当は動物園で展示されるようなゴリラではないことを説明しよう。

 つてのある研究機関にハルを送るのだったら、代わりのオスのゴリラを送ってくれるはずだ。

 それだったら園長も不服はないはずだ。

 そうだ、そうしよう。

 そのとき子どもを抱いた母ゴリラが一凛の方に顔を向けた。

 ハルと同じ黒曜石のような黒い瞳だった。

 一凛は窓に添えた手を握りしめる。

 自分はなんて身勝手なのだろう。

 自分がハルのそばにいたいために、ハルを他のゴリラから引き離そうとするなんて。

 ハルを研究室に送る?

 自分はいやというほど見てきたではないか。


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