雨の降る世界で私が愛したのは


 研究所で生活する天才型ゴリラたちは天才であるがゆえに自らが置かれた状況に深く失望していたことを。

 表立ってはそれを語りはしなかったが、年に数頭、自らの命を絶つゴリラがいた。

 野生のゴリラにはないことだった。

 それが研究所にいる天才型ゴリラたちの悲劇を物語っていた。

 そんな想いをハルにさせようとするのか?

 子どものゴリラの毛繕いをする母ゴリラの穏やかな表情と研究室にいたゴリラたちの表情はあまりにも対照的だった。

 彼らの瞳は思慮深げだったがその奥はいつも深い失望の色をしていた。

 一凛の目の前をもう一匹の子どものゴリラが駆けて行った。

 母親の腕の中にいた子どものゴリラがそれを追いかける。

 母ゴリラが何か言ったようだった。

 ささやかな幸せがそこにあった。

 この中で生活するほうが幸せに決まっているではないか。

 一凛はハルの檻へと足を向けた。


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