雨の降る世界で私が愛したのは
岩の上でハルは空を見上げていた。
「ハル」
一凛が声をかけると顔を向ける。
「実は話があるの」
一凛は園長から頼まれたと、ハルの移動計画について話した。
「で、ハルの意見を訊きたいんだけど」
「移るよ」
「え?」
一凛は思わず訊き返してしまう。
「だからそっちの檻に移ればいいんだろう」
一凛はハルがあっさり承諾するとは思っていなかった。
「本当にいいの?あっちの檻の方が広いけど他のゴリラたちもいて、こっちみたいにプライバシーはないし、それにあっちは見せ物みたいにじろじろ人から見られるのよ。それに他のゴリラたちはハルの話をちゃんと理解できない。あっちに移ったら普通のゴリラとして生活しなくちゃいけなくなるのよ」
ハルは笑った。
「俺は普通のゴリラだ。動物園にいる以上見せ物にされるのは当然で、今の状況の方が不自然なんだ。今まで本当によくしてもらったと思ってる」