雨の降る世界で私が愛したのは
ハルは潤んだ目で自分を見つめる一凛に手を伸ばしそうになるのをこらえた。
自分が新しい檻に移らなければ一凛の評判が傷つくことになるだろう。
カラスの噂話からトンゴのことは聞いていた。
こういうことになるのではないかと思っていた。
昔の記憶がないハルは過去に自分がジャングルでどのような暮らしをしていたか覚えていない。
自分の群れを持っていたのか、単独で行動していたのか。
新しい檻に移れば三頭のメスがいる。
自分はその全部かまたは気に入ったメスを選んで子どもを作らなければならない。
それが生殖可能なオスのゴリラの使命でもある。
実際に他のゴリラとどの程度コミュニケーションが取れるのかハル自身も不安がないわけではなかったが、自分のようなゴリラが集まる研究所というところよりマシなような気がした。
新しい檻に移れば一凛と今のように話すことはできなくなる。
でもそれでいいと思った。