雨の降る世界で私が愛したのは


 目を合わせようとしない一凛を見て依吹は「まじかよ」とため息をついた。

「一凛冷静になれよ、ハルはゴリラなんだ、人じゃないんだ」

「分かってるそんなの、わたしを誰だと思ってるのよ」

「だからこそ心配してるんだよ。研究に没頭しずぎて一般常識を忘れてしまってるんじゃないかと思ってさ」

 依吹はグラスに入った水を飲み干すとまた注ぎ足した。

「依吹も飲めば?」

「やだね、長くなりそうだから」

「とか言ってほんとうは飲めないんでしょ」

 依吹はそれには答えず、代わりにやれやれといった呆れた顔で一凛を見た。

「そういえばこの前颯太さんに会った。病院でときどき会うんでしょ」

「会うっていうか見かけるだけだよ、別に何もしゃべんねぇし」

 颯太はまだ子どもはいないが結婚していることを話すと、依吹はふぅんと、そのことについては知らなさそうだった。

 颯太に食事に誘われたと言うと「不倫予備軍だな」とけっと笑った。


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