雨の降る世界で私が愛したのは


「依吹は結婚しないの?」

 思わずそんな言葉が口をついて出た。

 依吹の返事は速攻ではっきりしていた。

「しない」

 なんで?と訊くのさえも憚られるような強い否定だった。

 とっさに自分の遺伝子を残したくないからと言った依吹の言葉を思い出した。

「不倫したくないから結婚はしない、なんてね」

 深刻な顔をした一凛を和ませようとするように依吹は笑いながら言った。

 一凛もつられて微笑んだが、頬が強ばっているのが自分でも分かった。

 依吹は手をあげて店員を呼ぶとウーロン杯濃いめを注文した。

 そんなもの飲まないと一凛が言うと、俺が飲むんだよと伊吹は応えた。

 チェーン店の餃子屋のあと居酒屋とスペインバルと最後は大きなスクリーンに海が映し出されている暗い店で強いカクテルを飲んだ。

 依吹は飲めないどころか強かった。




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