雨の降る世界で私が愛したのは

さようならハル



 ハルの移動実施に大喜びの園長は痛いほど一凛の手を握りしめた。

 一凛は移動のための準備と手順を園長とゴリラの世話をしているスタッフたちに説明する。

 一凛が作ったマニュアルを読み時おり質問をするスタッフたちのその目はとても真剣だった。

 これだったら安心して任せられると一凛はほっとし、最後に自分は指示するだけで実際には立ち会わないことを告げると園長は少し残念そうな顔をしたが、「お忙しい先生ですから仕方ないです」とそこは素直に受け入れてくれた。

 全てを説明し終えると一凛は周りに分からないようにため息をついた。

 これでいいんだ。

 心の中で自分に言い聞かせる。

 これがみんなが幸せになる方法なんだ。

 一凛が自分の荷物をまとめて事務所を出ようとすると「先生」と呼び止められた。

 振りむくと一番一凛の話を熱心に聞いていた若い女性だった。

 化粧っ気のない顔は頬がりんごのように赤い。




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