雨の降る世界で私が愛したのは


 颯太のその言葉に一凛は反論したくもあったが、実際に自分はそうだったし、その言葉は一凛にというより颯太自身に向けられた言葉のように思えた。

「奥さんと上手くいってないの?」

 この際単刀直入に訊こうと思った。

「あんまり顔を合わせないですむように緊急外来に移動を希望したんだ」

 だったら子どももいないのだし離婚したら?と思ったが、事情のない夫婦などいないだろう。

 結婚指輪を外さない颯太はまだ奥さんを愛しているのかも知れない。

「俺の人生こんなはずじゃなかったんだけどな」

「こんなってまだそんなこと言うの早いんじゃないの?」

「早いかな?」

「うん」
 
 颯太はなぜかじっと一凛を見つめた。

 その目は何かを強く訴えたいと揺れているように見えたが颯太の口は堅く閉ざされたままだった。

 この前会ったときは少し酔っていたせいもあって気づかなかったが、颯太は変わった。


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