雨の降る世界で私が愛したのは


 寝ぼけながらも真夜中の電話なんてもしかしたら何かよくない知らせかも知れないと不安がよぎったのもある。

 明るく光る液晶画面に目を細める。

 依吹

 その名前を見てほっとした。

 研究室に籠っていて暇をもてあましているのだろう。

 実験は待ちが多くて時間つぶしが大変だと依吹は言っていた。

 一凛も大学の研究室にいたときは昼も夜もなかった。

 依吹の状況が分からなくもないが、今は迷惑だ。

 はっきりそう言わなくてはと、光る通話ボタンに触れる。

「もしもし依吹、あのね」

「一凛」

 依吹の声は低く静かで、でもしっかりとしていた。

「こんな時間になによ、暇つぶしとかだったらほんとうにめいわく」

「ハルが人を襲った」

一瞬にして目が覚める。

 すぐに言葉が出てこなかった。

「一凛聞いてるか、ハルが飼育スタッフを襲った」

「ど、どうして?なにがあったの?」

 やっと出て来た言葉は、情けないほど震えていた。



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