雨の降る世界で私が愛したのは


 なんとかそれらしい理由をつけてハルに会わせてもらえないだろうか。

 いやハルと言わなければいい。

 他の用事で宿舎へ入るカギを借りればいいのだ。

 いやわざとらしすぎる。

 そんな嘘は簡単にばれる。

 最悪の場合、相手も女性だ。

 力ずくでなんとかなるかも知れない。

 一凛は笑った。

 自分の思考回路が明らかに変になっている。

 その時だった女性スタッフは座っていた椅子から立ち上がると奥にある扉の向こうへと消えた。

 扉の向こうは長い廊下になっていてその先に更衣室がある。

 チャンスだ。

 一凛は急いで音を立てないように入り口から中に入った。

「一凛先生」

 入った瞬間声をかけられる。

 出て行ったと思ったスタッフが扉のところで一凛を見つけて驚いた顔をしている。

 一凛に背をむけブラシで血を洗いながし、キラキラした目で一凛に話しかけてきたあの若い女性スタッフだった。



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