雨の降る世界で私が愛したのは
彼女の大きな目がみるみるうちに歪む。
辺りを見回し椅子にかけてあったタオルをつかむと一凛の元に駆け寄ってきた。
「先生、こんなに濡れて」
彼女は一凛の体を拭いた。
一凛は全身びしょ濡れだった。
自分のそんな姿に気づかないほど一凛は必死だった。
スタッフの女性は拭きながら涙を流した。
「ごめんなさい、ごめんなさい先生」
何度も彼女は呟いた。
「先生にハルをお願いねって頼まれたのに」
最後泣き崩れるように床に膝をつく彼女の手を一凛は取った。
無視されたときは腹も立ったが、ブラシを握る小さな背中が一凛に詫びているようにも見えた。
一凛は事の真相とハルの居場所を一刻も早く知りたかったが肩を震わせ冷たい手をした彼女が落ち着くのを待った。
風が出てきたのか窓がときおり揺れ、その度にざっと雨音も激しくなる。
真実は一凛の想像を超えるおぞましいものだった。