雨の降る世界で私が愛したのは


 男はメスのゴリラたちに自分で作った薬物を摂取させていたのだ。

 食べ物に混ぜたり時には注射器で直接注入し、ゴリラたちの反応を観察した。

 そして男は違法に作ったドラッグをどこかに売ろうとしていたらしい。

「どうして、なぜ、そんな男を働かせていたの」

 彼女を責めてはいけないと思いながらも強い口調になってしまう。

「知らなかったんです。誰も知らなかったんです、園長もみんな」

 それはハルの移動計画を説明したに日一人だけ欠席していたスタッフだった。

 感情をぶつけたくてもその顔が分からず激しい憤りが一凛の中で渦巻く。

 動物園の関係者がそのことに気づいたのは事件が起こってしまったあとだった。

 あの日ハルの雄叫びを聞いた何人かのスタッフが駆けつけ檻の中で倒れている男を発見した。

 男の横には割れた注射器が転がっていた。

 彼女も駆けつけた一人だったと言う。

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