雨の降る世界で私が愛したのは


 初めて見るピグミーマーモセットの子どもは小さ過ぎて猿じゃない別の生き物のように見えた。

 一凛の指にしがみつくその姿は、前に親戚のお姉ちゃんにもらったオーストラリア土産のコアラクリップみたいだった。

「お名前は?」

 一凛は囁いた。

「シャーロット、三ヶ月」

 小鳥が鳴くような小さな声だった。

「可愛い」

 黒い数珠玉のような目をした顔はとても愛らしいが、その目が閉じられると仙人みたいなしわしわの顔になる。

「あたしの赤ちゃん返して」

 声のする方をみると、いつの間にか目の前に小猿のお母さんがいて一凛を見ていた。

 お母さんといっても十五センチ程の小さな猿だ。

「ああ、ごめんなさい」

 一凛が小猿の止まった指を差し出すと母猿はもぎ取るようにして小猿を抱きしめた。

「あたしの赤ちゃん、あたしの赤ちゃん」

 母猿は子守唄でも歌うように体を揺らす。



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