雨の降る世界で私が愛したのは
その様子を微笑ましく眺めていると母猿は一凛と依吹を交互に観察するように見て言った。
「二人も赤ちゃん作ればいい」
まだ小学生でもその意味を知っている一凛は自分の顔が熱くなるのを感じた。
一凛が答えに困っていると依吹が助け舟を出した。
「ぼくらはまだ子どもだから無理だよ」
「そんなに大きいのに?」
母猿は首をかしげる。
「さあ、そろそろ行こうか一凛」
母猿の視線に合わせて屈んでいた依吹は背筋を伸ばした。
その顔はいつもと変わりなく、自分だけ動揺してしまったのが恥ずかしい。
依吹は動物との会話に慣れているからだと自分に言い聞かせる。
外に出ると湿った空気に夜の匂いが混じっていた。
「猿なんかは人と話しているみたいな錯覚に陥っちゃうこともあるけどさ、でもやっぱり動物なんだよな、人間じゃない」
依吹は傘をさすと、暗いから気をつけてと一凛を振りかえった。