雨の降る世界で私が愛したのは


 ハルと向き合う。

 今ふたりを隔てるものは何もない。

 ハルは檻の外で見るよりも大きく見えた。

 一凛がハルに近づくとハルは手を伸ばす。

 その手がそっと一凛の髪に触れた。

 一凛を映したハルの黒曜石の瞳が揺らぐ。

 一凛がハルに体を寄せるとふわりと抱きしめられる。

 ハルの体温は一凛の体温よりずっと高く感じた。

 真綿を抱くようにハルは一凛を抱きしめた。

 一凛はハルの胸に頭をもたせかける。

 ハルの胸の中は湿った草木のような香りがした。

 ずっとこんなふうにしたかった。

 ずっと前からこんなふうにハルに触れられ、触れたかった。

 どこからともなく風が吹いた。

 顔をあげるとハルと目があった。

 自分が今ハルに何を望んでいるのか分かっていてもためらいはなかった。

 ハルも同じであって欲しいと願った。

「ハル」

 懇願するようにハルの名前を呼んだ。

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