雨の降る世界で私が愛したのは
ハルの瞳が近づいてくる。
一凛は目を閉じた。
一凛の唇にハルが触れたとき、何かが光った。
真っ青な空に眩しく輝くそれは一凛が今まで一度も見たことのないものだった。
水分を含まない乾いた風が吹く。
遠くで鳥が鳴く声がした。
清らかに響きわたる笛のようだった。
唇が軽くなって目を開けるとまだハルの大きな黒い瞳が目の前にある。
「今のはなに?」
一凛は迫り上がってくる熱い塊をこらえながら声を絞りだした。
ハルは黙って一凛を見下ろしていた。
ほのかはワイパーを最大にした。
それでも激しい雨はフロントガラスの視界を遮る。
バックミラーを覗くと後部座席の一凛と目が合った。
「ほのか、なにも言わないの?」
「驚きすぎて言葉が出てこないのよ」
一凛の横のハルに目をやる。
ハルは身を屈めてもそれでも頭が車の上部に押しつぶされている。