雨の降る世界で私が愛したのは
ときどき後部座席から「ハル」と囁く一凛の声が聞こえてくる。
最初は一凛の動物愛護の精神がハルを連れ出したのだと思った。
でも車を走らせるうちに一凛とハルの間にはそれだけではない何かがあることをほのかはすぐに感じ取った。
ハルを呼ぶ一凛の声はほのかが初めて聞く声だった。
颯太やアレック、そして依吹。
彼らの名前を呼ぶのとはまったく違う。
一凛の声には愛おしさが溢れていた。
子どもやペットへの愛情ではない、それはまさしく恋人に向けるような甘く切ない囁き声だった。
「なんで依吹じゃなくてわたしを呼んだの?」
ほのかは前を見たまま一凛に訊ねた。
「ほのかだったら分かってくれそうな気がして」
「一凛にとってハルは」
その先の言葉は吞み込んだ。
口にすることができなかった。
口にして一凛に肯定されるのが怖かった。